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詩という生活・オオカミ編集室のブログ

光冨幾耶の文芸雑記・雑感、文芸雑誌「オオカミ」の告知・情報ページです。

詩「明るい砂場にて」

明るい砂場にて  

光冨幾耶

 

 

(その日、わたしは校庭にひとり残って

砂場に坐りこんでいた

午後の授業はまだ始まらない

背後には緑のフェンスがある

 

手のひらに覆われた砂山

風が吹き砂を吹き上げ

指の先から砂がすこしずつ盛りあがり

なだらかな丘のかたち

校舎をうしろにして

砂をかためると笑みがこぼれた

 

話声がする

よそのクラスの子たちがあつまってきた

ちかづきのぞきこみながら

うつむきがちに微笑むわたしの

砂山を足で踏みつぶしていく

山の頂にくもった空に穴があいた

 

わたしはそれでも

砂の山を作り始める

横で山を作り始めた彼らより

早く高い山が立ちあがってくる

その頂きに風がふいていく

ひとの子たちは楽しげな声をあげて

わたしの砂の山を足で踏みつぶしていく

三度ひとの子たちは声をあげてこわしていく

いくつもの靴に踏まれて

わたしの手はくろずみ 脈が痛い

 

雨が、降り出したころ、

わたしはいつもより、

高くみえる空のした校舎にかえっていった。

彼らの歓声を背にして、

痛んだ右手を汚れた左手でおおい、

雨空を見上げ 教室に戻ると

声をかけ、駆けよる級友たちと

((イツモハミナデ僕ヲ囲ミ叩キ(ナジ)ルクセニ

 

先生が声をあげて 教室に入ってくる

いつものように午後の授業が始まる


雑誌「オオカミ」42号から

 

 

 

 

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詩作品1「ひとの声」光冨郁埜

ひとの声 光冨郁埜

会うことのないひとたちの声
こころの輪郭(かたち)の外がわから
(空腹と眠気とにさいなまれながら
物をたたく乾いた風の音と
建物をきしませる低い空がおおう

ここから離れた場所
見知らぬひとの
(いや生まれる前にどこかであった顔かもしれない
その裾にふれてみる

ひびわれた街に
いく層もの
窓に映るひとたちの輪郭(かたち)
絶えまない車の列に
(これは現在(いま)であろうか、それともずっと過去(まえ)であろうか
寸断されては、また繋がっていく

枯れた枝先に空がささる
そのかたむく並木道に
茶色の手袋が置き忘れられて
ひとの抜け殻がうまれている

会うことのないひとたちの
それぞれの温もりに
そっと指をおいてみる
(その先にある駅の向こうまで
(その先にある駅の向こうまで

大きな翼の影に日が落ちて
(そむかれる、その白い顔に両の手をそえる

胸に手を置きながら
わたしは気づかないふりをして
会うことのないひとたちの声をまとう

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